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柏木隼人(他数名)の雑記帖
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これは一つの今更どうでもいい話の一つである。

「はい、第一回、隼人の初デート反省会ー」
いえーいどんどんぱふぱふー、などと一人で勝手に盛り上がっているギルガメッシュ・ガーランド(未亡人自由戦士・b00184)。
これでも教師である。
「反省会って言いますけど」
あからさまに不機嫌そうな声で突っ込みを入れ始めたのは九部・怜(九部コーポレーション社長・b08025)。
隼人の妹の一人である。
因みに不機嫌なのは、『【緊急議事発生】至急帰宅されたし』などというメールで呼び出されたのが一番大きな理由。
「…別に、ほら。兄さんがどこの誰とデートしようが自由じゃないですか」
「同感です。私には関係の無い話ですね」
むすっとした顔の怜の隣で頷いているのは、柏木・はやて(疾風の拳士・b59880)。
彼女もまた隼人の妹の一人である。
「おやおや~? ブラコンシスターズはおにーちゃんの彼女に興味ないと?」
「「誰がブラコンシスターズですかっ!?」」
ギルガメッシュの茶化しにカンペキなハモリで返す様を見ながらくすくすと笑う赤い男と白い娘。
「まぁいいじゃねぇか。ほら、他人の恋バナに華を咲かせるのだって、ガールズトークっぽいだろ?」
「そういう貴方はガールじゃないけれど、ね」
鉤鷲・紅太郎(通りすがりのおせっかい焼き・b08049)とレムリア・ローゼンクロイツ(極光の闇・b13116)はとりあえず、面白そうだからと思って来たクチである。
因みに紅太郎は柏木の弟、ギルガメッシュの実妹であるレムリアは叔母にあたる。
少なくとも、そういう事になっている。
 
「…むむ。しかしこうして見ると」
ギルガメッシュはぐるりと面子を見まわして、
「アイツ、中々にカオスな家庭環境ね…」
「何と言うか、『お前が言うな』と激しく言いたいですが同感です」
ギルガメッシュは書面上、柏木の継母にあたる。従って、はやてにとっても継母にあたる訳だ。
「なぁいい機会だからさ、ちょっと整理してくれね? 俺良くわかんねーんだよな。アイツの身内関係」
「そうね。…ま、主に設定厨の背後のせいなんだけれどね」
黙れゴスロリツンデレ幼女弄られ系。
 
 
「んじゃあ私からいってみようか。私はねー、十六ん時に結婚したダンナが鷹人だったからだねぇ」
「柏木鷹人は私の父親です。…尤も、父が貴女と再婚した時には私は家を出ていましたので、貴女を母親と認める気はまるで無いですが」
「んー、いいんじゃないー? 別に。私もそんなに母親面する気無いしねー」
はやては物凄く不愉快そうに言うが、ギルガメッシュはどこ吹く風。
レムリアは溜息を吐きつつ、紅茶を口にする。
「…お蔭で私はこの歳であんなおっきな甥持つ羽目になっちゃったけどね。ああ、因みにギルガメッシュ・ガーランドってのは勿論自称で、本名はレオノーラ・フォン・ローゼンクロイツよ」
しれっと本名を聞かされて、その場の全員がギルガメッシュをまじまじと見る。
「…何よ、その『似合わねー』って顔」
「いや、実際似合わねーしごぶぁっ!?」
台詞を言い切る前に蹴り飛ばされた紅太郎。
「…で。まぁレムリアはうちの妹で、そうなると隼人とはやてからは叔母にあたるって訳」
「非常に不愉快な話です。…では次は私ですか」
こほん、と咳払いをしてからはやては口を開いた。
 
「私の実家…つまり柏木の家は、代々魔を狩る武門の一派…でした」
「でした、って事は、もう無いの?」
「…そうですね。私も家を出ましたし、事実上血脈は断たれたと言って良いでしょう」
はやては話が逸れましたね、と前置きしてから、
「隼人は私が幼い頃に、養子として引き取られて来ました。父は隼人を厳しく育て、後継者にしようと考えていた様です。当時幼かった私はそれが認められず、家を出た形になります。…尤も、結局隼人は後継者とはならなかった様ですが」
「…ところで、兄さんはどんな兄だったんです?」
「…少なくとも彼が、優しい良い兄であろうとしていたのは…幼いながらに解っていました。
 
…当人には口が裂けても言えない事ですが」
「何だ、はやてちゃんも案外ブラコンなんじゃあべしっ!?」
またも余計な事を言って殴り飛ばされる紅太郎。学習しない男である。
 
「柏木の家に養子に出される前は、私の…九部の家に居ましたね」
次は私の番と察した怜が、昔を懐かしむ様に語り始めた。
「兄さんは、父の婚約者の連れ子という形で家に来たそうです。母は婚約者の身でありながら、どこか別の家の人と不貞を犯していた所を連れ戻されたと」
知ったのはごく最近ですが、と口にしつつ紅太郎にちらりと視線を送る。
「…兄さんの家の中での立場はとても良いものではありませんでしたが、母も兄さんも、私にはとても良くしてくれました。父は…結局の所、二人をどう思っていたのかは最期まで判りませんでしたが」
自然と場の雰囲気が重くなり、静かになる。
「私が幼い内に母が病で亡くなり、それを待っていたかの様に兄さんは柏木の家に養子に出されました。兄さんによく懐いていた私は、当時はそれはもう酷い様だったと聞きますが」
「…それは解るわ。私も姉さんが居なくなった時は泣きまくってたそうよ。…ま、今じゃクソ姉と思ってるけど」
溜息を吐きつつ怜の言葉に同意するレムリア。
…が、表情はどことなく昔を懐かしむ様に穏やかだった。
「多分…私に対してもはやてさんと同じく、優しい良い兄でした。正直恨まれても仕方がないとさえ思うのに。…だから思うんです。例え父親が違っても…同じ母親から生まれた兄妹なんだ、って」
穏やかな笑顔で感慨深くそんな言葉を口にした怜に―――
 
「いや。隼人と怜ちゃんは血、繋がってないぜ?」
 
――と、この場に居る全員にとって衝撃的な事実が告げられた。
 
床に突っ伏していた紅太郎が身を起こし、椅子に座りなおす。
「どういう事です…? 母が六条の男との間に産んだ双子の兄弟…それが兄さんと貴方だったんじゃないんですか?」
明らかに狼狽して怜は紅太郎に詰め寄る。今にも掴みかかりそうな勢いだ。
「俺については間違いない。だが…そもそも俺と隼人の間に血縁は無ぇんだ。唯歳の頃が同じだったってんで書面上、双子と処理されただけなんだよ」
 
 
一九九〇年。年も明け、春の訪れも近いと思われた三月も半ばの出来事だった。
六条慎太郎と八代紅花は、周囲の親族の目から隠れて生活していた。
紅花は九部零次と婚約関係にありながら、幼馴染である慎太郎と恋に落ちていた。
所謂、駆け落ちである。
既に没落寸前であった六条家に、かつて魔道六家とも謳われていたかつての栄華は無かった。
―――いや。そもそも世界結界の影響もあってか、六家全てがとうに存続の危機に窮していた。
戦後の高度経済成長は、裏社会や土着信仰の陰で細々と続いていた「神秘」の残る余地を奪っていったのである。
そこに救いの手を差し伸べてたのが、九部家である。
バブル景気によって巨大な富を生み出した九部家による支援は、まさに彼らにとっては救いの手であった。
その盟約の証として差し出されたのが紅花と零次の婚約であり、最も衰退していた六条家はその恩恵を受ける事無く、六家から除外される事となった。
故に慎太郎と紅花の恋は認められず、既に恋仲にあった二人は親族の目の届かぬ土地へと逃げ出していた。
 
―――その日は、酷い雪の日だった。
母は、幼い俺が風邪をひかぬ様、囲炉裏の傍で俺を毛布に包んで抱きかかえ、父は火を絶やさぬ様にしていたそうだ。
既に元号も平成となった世において、その様に原始的な暮らしをしなれければならぬ程の生活だったらしい。
 
…だから、ずっと俺はそれがおとぎ話なんじゃないかと疑っていた。
赤ん坊を鸛が運んできたと言う様な、おとぎ話なのだと。
 
既に夜も遅く、零時を過ぎた頃だったそうだ。
扉を叩く音がし、父が様子を見にゆくとそこには、長い髪の女が赤ん坊を抱き抱えて立っていたそうだ。
黒い着物を纏い、氷の様な白い肌。その様はまるで…雪女の様であったと聞く。
女は唯一言、
 
――どうか、この子を宜しくお願いします。
 
そう言って抱えた赤ん坊を父に差し出した。
余りに非現実的な出来事に戸惑っていた父は、何も問えぬまま赤ん坊を受け取った。
女は酷く悲しそうに、それでいて慈しむ様に赤ん坊の頬を一撫でしてから、吹雪の中に消えていった。
 
父と母は、その赤ん坊を俺と双子の兄弟として育てたそうだ。
その後、半年も経たずに元々体の弱かった父は他界した。
母は双子を養う為、止むを得ず六家の元へと戻った。
…六条の血を引く俺を九部の家の子とするのを避ける為に俺は母と引き裂かれ、遠縁の養子として育てられる事となった。
 
その後、俺は一度だけ母と再会する事となる。
海外へ引っ越す事となり、最後に一度くらいは…という配慮だったのだろうか。
この話を聞かされたのはその時だ。
隼人と再会したのもその一度きりだった。
尤も、引き裂かれた時には一歳にも満たない赤ん坊であったし、お互い兄弟だなんて認識は無かったのだが。
 
 
 
「…とまぁ、そんな感じだ。因みに後で調べたんだが、隼人は別に雪女…来訪者では無ぇみたいだな」
「そんなおとぎ話みたいな話が…」
怜が疑うのも無理はない。紅太郎自身が半信半疑なのだ。だが…、
「俺ぁこう見えてもアメリカで遺伝子工学やってたんでね。そのツテで調べて貰ったりしたが
…俺と隼人に血縁は無ぇのは確かだ。…ああ、あいつ本人も知ってるはずだぜ? 口止めされてたけどな」
しれっとそんな事を言ってのける紅太郎。
「なんでそんな事…」
「気ぃ使ったか、或いは…意味が無いからじゃねぇの? 血が繋がってようがいまいが、アンタらは確かにアイツの妹だよ」
見て取れるほどにショックを受けている怜と、少なからず衝撃を受けているはやてに、紅太郎はそう慰める。
「…そもそも…隼人という名前さえ、元来彼のものではありませんから」
そう、再び衝撃的な事実を告げたのははやてだった。
「怜は既に存じているとは思いますが…」
 
 
 
――柏木とは魔を狩る者である。
 
ある日、父は一人の少年を連れてきた。名前は無い。
本当はあるのに呼ばないだけなのかと思い、本人に聞いてみた事もある。
 
――ごめんね。僕も自分の名前を知らないんだ。
 
そう、とても申し訳なさそうに『彼』は答えた。
それがどれだけ残酷な事だったのか、当時の私には解らなかったけれど。
 
それでも、父は『彼』に対して兄や私と変わらぬ様に厳しく鍛えていった。
…そう、私には兄が居たのだ。
柏木隼人。当時既に成人していた、年の離れた実の兄。
私より強く、私が憧れていた兄。
兄もまた、『彼』に対して兄弟の様に接し、『彼』もまた、弟として兄によく懐いていた。
 
それでも尚、誰も『彼』の名前を呼ぶことも、彼に名前を与える事もしなかった。
『彼』もまた、それが当たり前であるかの様に振る舞っていた。
私もまた、その異常性に気付かぬままに。
 
 
ある日、兄が変わった。
…今になって思えば、きっとそれは見えざる狂気だったのだろうか。
肉体的に強かった兄は、能力の覚醒そのものは酷く遅かったのだ。
最初の内は兄自身、何とかしようとはしていたけれど…どうにもならなかった。
そして…兄はついに人を殺めてしまった。
 
既に兄を止める手段は、一つしか残されていなかった。
父は『彼』に命じた。
 
―――最初の仕事だ。アレを止めて来い。
 
柏木の家に連れて来られた時点で、既に彼は能力者として覚醒していた。
事は、拍子抜けする程あっさりと終わった。
兄を手にかけた『彼』に、父はこう告げた。
 
―――よくやった。今日からお前が『柏木隼人』だ。
 
その時『彼』は、ようやく手に入れた名前に喜ぶ事も無く、ただ無表情にその言葉を受け止めていた。
柏木隼人は魔を狩る者である。だが、彼が最初に手にかけたのは…狂気に陥った人間だった。
その時彼が何を思ったのかは解らない。
だがその日を境に、彼はより「兄」として振る舞う様になった。
 
…それを見ていられず、私は家を出たのだ。
 
 
 
「…今になって思えば。もしかしたら初めから父はそれを予見して彼を引き取ったのかもしれません」
「ま、鷹人も厳しいけど、身内に甘いトコあったからね。…多分、あの人じゃ止められなかったろうね」
かつての夫を思い出しながらギルガメッシュに、
「…っ、それでもっ、なんで兄さんがそんな…っ!!」
怜は激しく詰め寄った。が…、
「怜、貴女も解っている筈です。彼の名前を呼ばなかった、与えなかった者の中に…私達は含まれている事を」
「…っ!?」
はやての制止に、怜は落ち着きを取り戻す。
「ま、出生不明。しかも忌子と思われてたとなりゃ、そうも扱われるかも、な」
それだけじゃないかもしれんが…と呟きながら、紅太郎はぼんやりと天井を見上げながら指折り数える。
六条慎太郎の死と八代紅花の死。
『本物の』柏木隼人の死と鷹人の死。そして『柏木』は流派としては絶えた。
「九部の親父さんからすりゃあ、バブル崩壊なんかもその辺に含んじまったのかもしれんが…まぁ確かに色々起きすぎだわな」
「何かメガリスの代償みたいで、嫌な話ね」
思案気にレムリアはそう言うが、今となってはそれを調べる術も無いだろう。
「それでも…兄さんがそんな風に扱われる道理は無い筈です」
「そうね。…でも、もういいんじゃない? そんな事」
ギルガメッシュは悲痛な面持ちの怜の肩を叩き、
「今じゃ私たちはちゃんと名前を呼べる、家族にはなれてるじゃない? はやてちゃんだって、別にその辺で恨んでるって訳でも無さそうだしねぇ」
「…私は、他に語り合う術を知りませんから」
「ジャ●プ漫画じゃねぇんだから。それで毎度挨拶の様に殴りかかられるたぁ、ツンデレだか
 
ヤンデレだか解んない妹二人も抱えて、隼人も大変だぁねぇげぼばっ!?」
「…殴りますよ?」
殴ってから言うな。
 
 
「で、話が盛大に逸れた所で反省会いってみようか」
「ここで戻すんですか!?」
あったりまえじゃんと胸を張るギルガメッシュ。
さっきまでのシリアスな空気は何だったんだ。
「でー、まぁ此処にリプレイがある訳ですが」
「何であるんだよ…」
と言いつつ斜め読みする紅太郎。
メタな事は気にしてはいけない。
「じゃあとりあえず感想でも聞いてみようか?」
 
「爆発しろ」
「爆発して下さい」
「爆発しやがれ」
「爆発なさい」
 
「はい、お約束の感想どうもありがと~」
異口同音のその言葉に満足げなギルガメッシュ。
「しかし何でしょうね、この良いお兄ちゃんポジションぶりは」
「あら何? はやてちゃん気になる? んー確かにシスターズにとっては驚異的?」
「………」
反論しない辺り、割とマジに脅威に思っている様である。
「にしてもフラグの立てっぷりパねぇな? どっからだ?」
「ああここからかしらね、七本目。こんなに感情的な隼人珍しいわね」
一方冷静に分析してる紅太郎とレムリア。
「その辺りからですね。隼人が結構感情的になりやすくなったの」
「私達でさえ、そういう兄さんは見た事ありませんでしたしね」
「にしても、よう頭撫でてるわねぇ。趣味?」
「いやそれがよ? プレイングにゃ一度も描いた覚えがねぇんだと」
「…ポジション効果?」
「多分」
「それにしても、この子殺し文句や殺し技を心得ているわねぇ。何、ホントに天然?」
「天然です。だから恐ろしいんです」
「で、隼人は隼人でまたヘタレというか不器用というか」
「まぁほれ。あいつスパ■ボで言うと魂覚えた後に熱血覚える様な奴だし」
「ステシも開き直って来てるし。え、何あのメガネ本質的には結構熱血バカ?」
何だかんだで盛り上がる反省会。
メタ要素の高い空間で細かい事を気にしてはいけない。
そこに…、
 
「お前ら、人んちで何してるんだ…」
思いっきりあきれ返った声が、玄関の方からしたのであった。
 
 
「全く、そういうのは詮索するもんじゃないだろうに…」
「えーだって気になるじゃないかー」
ぶーぶーと文句を言うギルガメッシュに、丸めた紙束(回収したリプレイである)でポカリと殴る隼人。
因みに全員壁際に正座で怒られた後である。
「とにかくとっとと帰ってくれ。今日は疲れたんだ」
主に今の騒ぎで。
「へいへーい。んじゃ二次会いくぞー」
「すんなっ!?」
渋々撤収するギルガメッシュとレムリアと紅太郎。
 
怜は帰ろうとする足を止め、隼人に向き直る。
「兄さん、貴方は、本気であの人を…?」
「…ああ。悪いか?」
少し気恥ずかしそうにそっぽを向く隼人。
「でも、だってあの人は……」
何かを言いかけて、怜は言葉を飲み込む。
「―――隼人、忘れるな。…神将は生命では無い」
「…なんだと?」
その飲み込んだ言葉を、はやてが口にした。
「アレはメガリスによって再現されている、死者…良く言っても現象に過ぎん。お前は…」
「わかっている。そんな事はわかっているんだ、だから―」
黙ってくれと、隼人が言葉を続ける前にはやてが言葉を続けた。
 
「お前は、いずれ消える女に夢を見て、夢を見せているだけに過ぎん」
 
がたん、と大きな音を立てて椅子が倒れる。
隼人ははやての胸倉を掴み、今にも殴りかかりそうになり…そこで止まっていた。
激昂していて、それでいて何か…今にも泣きだしそうな顔。
二人の妹が初めて見る、兄の顔だった。
 
「…仮にお前の想いが遂げられたとしても、もしメガリスが何らかの原因で消える事となれば、彼女は消える。仮にメガリスが永続的に存在したとしても、お前が死んだ後彼女はどうする」
「それは…」
何も言葉を返せず、隼人はその手を放す。
「お前の選択は残酷だ。ならばいっそ…いや、これは言うまい」
「何だ、そこまで言ったんだから言ってくれ」
「いや、いい。これは私が決める事では無かった」
「…?」
はやてはこう言おうとしていた。
――ならばいっそ、あの時彼女達も消えてしまった方が良かったのではないか、と。
多分、それは間違いだ。彼女達を見ていれば、そういう機微に疎いはやてでさえわかる。
彼女達は確かに救われている。なら、彼の選択は誰に対して残酷だというのか…。
 
ふぅ、と大きく息を吐いて、はやては落ち着きを取り戻す。
「済まない、言い過ぎました。ですが隼人、…覚悟はしておくべきかと思います」
先の事など誰にも判りはしない。
だがどちらにせよ、希望に満ちた未来を期待するには難しい。
ほんの少しの切っ掛けで、全てを失いかけない危うい道。
「隼人、貴方はかつてこう言った筈だ。死者は死者だ。それが結果の存在である以上は、あるべき所に逝かねばならない…と」
それは紛れもなく、隼人自身が彼女に言った言葉。
それは彼女に対しても、もしかしたら同じ様な意味を持つ言葉。
違いがあるとすれば。彼女が生と死の境界線の狭間に立つような存在であるという事のみ。
 
―――神将は生命では無い。
 
かつて知識を秘蔵せし書庫が告げた言葉が、今なお隼人の胸に呪いの様に突き刺さっている。
既に生命の根源たるディアボロスランサーも、この宇宙には無い。
奇跡に期待するには、あまりにも分が悪い。
だが…、
「それでも俺は…アイツが好きだ。だから…」
「ええ、解ってます。兄さんが何も考えずにやってるとは、思ってませんから」
暫く黙っていた怜が口を開く。
怜はそっと隼人の頭を撫で、
「ごめんなさい、兄さん。余計な事を聞きました。だから、そんな顔をしないで下さい」
「怜…?」
「覚えてますか? 一度だけ、私が怒られて泣いていた時に、こうして慰めてくれたのを」
「…ああ、そんな事もあったか…」
隼人にとっては、兄として当たり前の事だった。
だから、そんな事は殆ど忘れていた。
怜にとっては、兄が唯一度触れてくれた思い出だった。
だから、そんな事をずっと覚えていた。
…その違いが、怜にとっては酷く辛く…それでいて、酷く暖かかった。
どんな過去があろうと、彼は私の兄で居てくれる。
なら、それでいいやと。怜は一つ、抱いていた大切な想いを箱に仕舞って鍵をかけた。
「…だから、そんな顔をしないで下さい。兄さんが幸せにならないと、私怒っちゃいます」
「…それについては私も同意します。貴方は私の兄なのだから、しっかりしていて貰わないと」
怜とはやてがどのような感情を抱いていたのかを、隼人は知らない。
だが知らずとも、妹として兄を思っていてくれている事はしっかりと理解できた。
「ああ、悪い。…少し、情けない所を見せた」
ふぅ、と大きなため息をついてから、
「…さて、偶には三人で夕食にするか? そういうのも悪くないだろう」
と、隼人の誘いに、二人は首を振った。
「今日はいいです。また次の機会にします」
「私も。…決着を付けるのも忘れぬ様にお願いします」
「全く、そういう負けず嫌いなトコ、誰かさんとそっくりだな」
苦笑する隼人に、むっとするはやて。怜はそんな二人を見てくすくすと笑っていた。
 
そうして、二人は「ではまた」と言って、部屋を去った。
 
 
「怜、良かったのですか? 本当に」
「いいんです。…とてもじゃないけど敵いません。兄さんにあんな顔させるくらいだもの」
「…そうですね」
夕暮れの街を二人で歩く。
願わくば、何か奇跡の一つでも起きてくれないかと想いつつ。
 
「おーいシスターズー、遅いぞー」
ふと見ると、居酒屋で本当に二次会やってる三人組。
ちょっと、お酒なんか呑んでないでしょうねー、と言いながら二人もそちらへ向かう。
 
 
 
これはある日の夕暮れのお話。
未来において意味を成すかもわからない、唯の思い出話である。、
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