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柏木隼人(他数名)の雑記帖
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これまでと、これから。

 
2010年、初夏。
その日、彼女に出会った。
 
 
 
始まりは、敵同士だった。
強力な力を持つ彼女との戦いにおいて、此方は敗走を余儀なくされた。
 
…数日後、意外な場所で再開する事となった。
街中のペットショップを巡っていた彼女に俺達は接触した。
 
その時の彼女が檻の中の動物達を見て何を思っていたのかは、その時は解らなかった。
知る事が出来たのは二つ、彼女が過去の人間であるようだと言う事。
それと、彼女が動物好きであるだろうという事。
 
更に数日の後、彼女は軍勢を率いて動物園に現れた。
目的は、檻に囚われた動物たちの解放。
俺達はそれを阻止に向かい…そして勝利した。
結末は、彼女の死と消滅。
謎を残したまま消えた彼女と、慟哭する仲間。
 
俺はそれを見ながら、何か言い様の無い感情を、己の内に感じていた。
怒りか、絶望か、不安か、…或いは何かの予感だったのか。
ただ…そう、『生きろ』と告げた後に死なれるのは、酷く堪えるものがあった。
 
――何モノにも囚われず、思うがまま自由に生きろ。
 
 
そういえば。
あの時俺が言った言葉は、親父が死の間際に言った言葉だったか…。
 
 
「隼人、お前はもう何モノにも囚われる事も無く、思うがまま自由に生きろ」
病に臥せっていた義父、九部零次は今わの際に、俺にそう告げた。
「お前はお前自身の望みを持て。誰かの為に生きるのでも無く、何かに報いる為に生きるのでも無く、
お前自身の願いの為に生きろ」
妻が想い人と引き離されたのも。
己が妻を早くに亡くしたのも。
義理の兄を討つ事となってしまったのも。
何も俺が責や咎を負うべきものでは無いと、義父は俺に言った。
「――今更だと思うかもしれんな。…そうだな、私はあの老人共の言葉なぞ聞かず、お前に名前をやるべきだったのだ」
父親としてあろうとするなら、その最初を間違えていたと。
悔いるように義父は言った。
「…それでも、俺には何もありません。本当に欲しいなんて思ったモノは何も――」
誰かの幸福を願った事はあるが、自分自身の幸福なんてわからない。
甘いものが好きなのだって、貴方がそれを食べる顔が幸せそうだから真似てみただけ。
猫やペンギンが好きなのだって、そうしてみようと思っただけ。
誰かに恋をしてみたことさえある。だがそれさえも…。
誰かを亡くす時だって、涙さえ流れない。
今義父の死に際に立ち会っている時にだって、悲しみなんてない。
 
…ああ、今になって気が付いた。
俺は今までずっと、それを探していたのか。
喜びや悲しみを抱ける心。何かを望み求める衝動を。
 
「フ、馬鹿息子め。図体だけ大きく、肝心な所は子供のままか…」
零次は微かに笑ってから、絞り出すように言葉を続けた。
「そんなものはな、隼人。真似事から始まるもんだ。お前は生まれ持って自分を律する能力がありすぎるだけの事。…なら、いずれお前は必ずそれに気づく」
真に強く求めるものであるならば、それは自身では抑えられぬ衝動であると。
「だからそう嘆くな。お前は立派に心を持った人間だ」
そういって、力ない腕で俺の頭を撫でる。
それが、最初で最後の、父親の温もりを感じた時だった。
「…最期になって、私もやっと親父らしい事が出来たか…」
「…何を。…あんたは、俺にとっては最初から立派に親父だったじゃないか」
それは本心からの言葉。
今の今まで一度だって彼を親父だと呼んだ事は無かったが、最期になって漸く呼べた。
その言葉に、本当に嬉しそうに親父は笑って。
「…そうか。それは良かった。…じゃあ、後は頼むぞ、息子よ。…怜の事も頼む」
そう最期に告げて、親父は幸せそうに息を引き取った。
やはり涙は流れない。
だがそれでも…何か『悲しい』という気持ちは、本当に抱けていると思った。
 
探しているものはまだ見つからない。
望み求める願いも今はまだ見つからない。
胸の内の空虚を抱えたままだが、それでもいつかと、その時から思える気がした。
 
 
 
動物園での戦いから後、彼女が生存していたという情報が入った。
詳細は解らないが、彼女は「そういうもの」だと納得する事にした。
同時に、安堵している自分に気付く。
彼女は敵だというのに。
…いつの間にか、俺は既に彼女をただ敵であるとは思えなくなっていた。
何か、自分の中の何かが変わり始めている。…そんな気がした。
 
程なくして、俺自身も彼女と再会した。
百鬼夜行の地縛霊に接する彼女を見て、また一つ彼女を知る。
…だが、ゴーストはゴーストである。そのままにする訳にも行かない。
「たとえか弱くとも、死者は死者だ。それが結果の存在である以上は、あるべき所に逝かねばならない。過去を変える事が決して出来ないのと同じ様にな」
剣を交えつつ、俺はそう告げた。
…その言葉は、後に俺自身に突き刺さる言葉となるのだが。
 
だが、再び言葉を交わせたのは本当に嬉しかった。
それを彼女に告げると、
「本当に……変な人たち……」
全くだ。俺はいつの間にこんなに甘い性格になったのだか。
周りの仲間たちの影響だろうか?
 
 
後日、俺達は動物園で再開した。
今度は敵も味方も無く。共に動物園を巡る者として。
 
物珍しげに動物園を巡る様を見て、昔義兄が動物園に連れてきてくれた事があったのを思い出した。
あの時の彼も、今の俺と同じ様な気持ちだったのだろうか。
楽しんでもらおうとするのは、こんなにも楽しいと思える事だったか…。
 
 
少々キナ臭い話もしたものの、楽しい時間がすぎるのはあっという間だった。
別れ際になって、一つ思いついた。ほんの少し、それを言うのは迷ったのだが。
「一つだけ約束して欲しい。もし……いつか敵同士で無くなる日が来たら、また一緒に動物園に遊びに来ないか?」
その時にはもう、敵同士でなくなれば良いのにと思い始めていた。
その僅かな感情が、何であるかなんて、その時の俺には解らなかったのだけれど。
唯、何か繋がりを残しておきたかった。
彼女が『約束』によって囚われているのならば、彼女を開放する道もまた『約束』で切り開けないかと、その時の俺はそう思っていた。
 
 
その後、再び俺達は敵同士として出会った。
彼女が幼いひ弱な地縛霊を気遣い、守る様を見て俺は、二人が傷つくことも苦しむことも無い事を願っていた。
その時には、俺はゴーストに対しての認識すらも変わり始めていた。
かつては唯狩る対象であった筈なのに。
そう。気づけば俺自身、変わり始めていた。
 
 
 
次の出会いは、こんな形で求めてはいなかった。
ある事件で、ある少年の親を守りきれなかった事がトリガーとなったのか。
暴走し、狂乱する彼女の確保。それが今回の仕事だった。
森の中で彼女を追う。
この暴走の果ての彼女の死。
…思い出すのは、かつて動物園での戦いの折に消えた彼女の姿。
その光景が何故、今になって俺の胸を痛ませるのか―――。
必死に後を追い、彼女を見つけ出した。
仲間たちの説得も、果たして声が届いているのか。
ここまで焦ったのは初めてだった。
何を言えば良いのか?
どうすれば良いのか?
ああもう、理屈なんてどうでもいい。
俺は衝動的に、頭の中で組み上げた思考も理屈も全部ひっくり返して破棄した。
結局の所出来るのは、こっちの想いをぶつける他に無いのだから――っ!!
「……っ、ああもう。だから、共に生きていたいと、俺達がお前を好きだから、失いたくない大切な仲間でありたいと思っているから無茶するなと言っているだろうがこの直情馬鹿!!」
衝動的に思っていることをぶちまける。
理屈なんて何もない。
ただ、今の望みをぶつけるだけの言葉。
「だから、そう一人で抱え込むな。俺達が居る。お前の過去は聞かない。話したくなったら話してくれればいい。罪があるなら背負えばいい。俺達にお前を支えさせてくれるなら、それでもいい。何より……約束しただろう。敵同士で無くなったら、動物園にまた行くと」
そう、約束したんだ。
それが俺の望みであり、願いであり、求めていた『次』だった。
 
 
…そう、今になって思えば。
この時にはもうとっくに俺の望みは決まっていたのだ。
 
 
暫くの昏睡状態の後、仲間達の手によって彼女は無事回復した。
俺達は彼女から情報得て、封神台の位置を突き止めた。
後は封神台さえ手に入れれば全て…そう、思いたかったのだが。
「メガリスの力で存在している神将が影響を受けないという事は、まずないでしょう……それは、神将席を剥奪された私も例外ではないと思います……いえ、それ以前に……」
そう、その時点でわかっていた事だ。
「動物園……また、貴方たちと行ってみたいです……」
「それは約束しただろう? 必ず連れてく」
彼女の頭を撫でながら、俺は思った。
…あとどれくらいなのか。
明確な期限の解らぬタイムリミット。
カウントダウンはとっくに始まっているのに、あと何日残っているかすらも解らない。
多分この場に居る誰もが気づいている事。
誰もそれを明確に言葉にしないままその場は解散となり、俺達はその場を去った。
 
 
帰り道の途上、一人になりたくて河川敷の土手に来た。
幸いにして誰もいないので、土手に座って考える。
いや、…考えようとしたのだが、まったく考えが纏まらない。
「…畜生っ!!」
思い切り地面を殴りつける。
手の痛みなんてどうでもよかった。
ただ、約束を果たしたい。それだけの望みの筈なのに。
…誰かの死がこんなにも恐ろしいと思ったのは、生涯初めてだった。
 
 
…後に、彼女達は石化という手段によって存在を維持する事となった。
封神台は破壊され、メガリスの復活の時を待つ事となった。
 
 
 
そして一年半後。
約束は漸く果たされた。
俺達は心置きなく彼女と動物園を楽しんだ。
彼女の笑顔に、自然と俺の顔も綻ぶ。
…良かったと。俺は心の底から思った。
彼女が望むままに生きてくれればと。
これからの彼女が今の様な笑顔で過ごしてくれれば良いと。
これで望みは果たされた…筈なのだが。
何か、何かほんの少しの物足りなさを抱えている気がしつつ、俺はまだその答えには至らないままでいた。
 
 
 
天空の戦いにおいて、俺達は神秘根絶を阻止に出た。
神秘の根絶は、彼女の消滅と同義であるともいえる。
ならば。それを肯定する理由など在る筈も無い。それが今の俺の答えだ。
だが、それに賛同する者達が俺たちの前に立ちはだかった。
…結果から言えば、俺達は戦いに勝利した。
だが、昔の俺ならば。
神秘根絶もまた手段の一つとして肯定したのではないか?
それを認められなくなったのは何故か…。
何時の間に彼女の存在がこんなにも、俺の中で大きくなっていたのか。
僅かな戸惑い。――だが、不思議と悪い気はしない。
 
気付けば俺は――、
今は、俺自身の願いの為に戦っていた。
 
 
そして勝利の果てに手に入れた『知識を秘蔵せし書庫』。
それに願いを叶える鍵を求めた…の、だが。
――期待はしていなかった筈だ。
そんな都合の良いモノは無いのではないかと。
だが返って来たたった二文字の返答は、俺の心を沈めるのに十分だった。
そして、別の者の問いに対しての答え。
 
――神将は生命ではない。
 
それが何を意味するのか。
生命の為の戦いの果てに、俺の願いを叶える道があるのか。
言い様の無い不安を抱えたまま、俺はまた次の戦いに出る。
 
 
 
生と死の境界線の戦い。
同じ戦場で、彼女から僅か数メートルしか離れていない場所で俺は見てしまった。
彼女がまた白い霞と共に消える様を。
「な…貴様らぁぁぁぁっ!!」
無論封神台の仕組みは理解している。
今頃は彼女は地上に居るであろう事も承知している。
だがそんなものはどうでもよかった。
頭が憤怒の感情で塗りつぶされる。
白冷を討った時を同じだ。目の前の敵が憎くて堪らなくなる。
…戦いの後、俺は無性に彼女の顔が見たくなった。
無事であろうことは判ってるんだ。
だのになぜ…こうも胸が締め付けられるのか。
 
…自問の果てに、はたと気づく。
「…は、はは…」
何だ。そんなものは何も難しい事じゃなかった。
「はは…あはははははははっ!!」
あまりにも単純で簡単な答えに、俺は気がふれた様に笑ってしまった。
俺は唯アイツの笑顔が見たい。アイツの傍に居たい。
 
ただ共に在れればと。たったそれだけの願い。
つまるところ。俺はアイツが好きで好きで堪らないだけじゃないか。
 
なんてこった。
解ってしまえば、何もかもどうでも良いとさえ思える。
アイツが何であろうと構わない。
生命であろうと無かろうと関係ない。
封神台が死に満ちたメガリスであり、彼女もまたその力の一端であると言うのならば、それでも構わない。
最初に誰かが言っていた。君に、死と隣り合わせの青春を――と。
 
――なら、俺は彼女と隣り合わせの人生こそを望む。
 
生と死の境界線なんて超えてきた。
そんなものはもう、とうにどうでも良かった。
そんなことはもう、とうの一年半前には決まってた事じゃないか。
 
気付いてしまえば、心は少し軽くなった。
不安はある。だがそれが何だというのか。
求める未来がある。叶えたい願いがある。
…ならば、俺はその為に戦うだけだ。
 
 
そして俺は、大きなため息をついた。
時は過ぎて、八月に入ろうとする頃の夕暮れ。
「…何つーか。我ながらもう少し器用にやれんものかな」
つい先頃、妹達にまで心配されてしまった。
二つの三日月との戦いも終わり、ディアボロスランサーは次の宇宙へと旅立った。
先の事なんてもう解らない。
メガリスは変わらず存在するし、ゴースト事件も今なお起きてはいる。
…彼女もまた、元気に今を謳歌している様である。
「まぁいっそ、もう少し楽天的に構えるのもアリかな…?」
懐から一通の手紙を取り出し、読み返す。
「…ホント、意味分かってて言ってるのかね?」
思わず苦笑する。…いや、最初に読んだ時はそれはもう盛大に噴きだしたものだが。
彼女が変わった…いや、取り戻したように。
俺もまた自分を取り戻したのか…或いは、今になって漸く産まれたのか。
 
結局の所、世界は何も変わってはいない。
変わったのは自身の在り方か。
「さて、次はどう誘ったものかな…」
前回は我ながらどうかと思う誘い方だったんだ。
今度はもう少しマシな誘い方をしたいものだ。
 
そんな事に想いを馳せるくらいには、これからの未来に希望がある事を信じて。
今日も俺は日々を生きている。
 
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